猫の雑記帳 第1回

絵本「ノラネコの研究」

世にいわゆる猫本が星の数ほどある中で、本書はそうした猫本とは一線を画したものである。

小学中級向きの絵本ではあるが、題名の通りノラネコの研究記録だ。著者の伊澤雅子は大学でネコ科動物の生態野外調査を専門としているらしい。

九州の海辺の小さな町に住む野良猫「ナオスケ」の一日の行動を、夜も眠らず人目も憚らず、時に見失いながら追いかけてゆく。野良猫というのは、あまり田舎の、人が少ないところでは餌にありつけないので暮らしにくいものだが、ここは都会と違って、猫を追っていっても不審者と咎められない適度に人家のある場所らしい。

ナオスケの進む先で出くわす出来事を、著者は研究者の目で解説してゆく。 ネコ観察のコツ5ヶ条から、ネコ社会のルール10ヶ条。おしまいにはナオスケの一日の行動記録の地図と時間割表が示される。

平出衛による変化とアイデアに富んだデザインの絵が、頁をめくるごとに新鮮に感じられ楽しい。絵そのものは、ある時は、あのネコ漫画の傑作、小林まことの「ホワッツ マイケル」を彷彿とさせる。見開き2頁の夜の田んぼを歩くナオスケの姿は美しい。

都会の野良猫たちは、ほとんどが人の情けに縋って生活しているものだが、その面構えは「腑抜け」の飼い猫たちとは違ってたくましい。疑わしげに人を見る不信の眼差しは、これまでの苦難の日々に裏打ちされたものだ。こうした「大人の」野良猫たちと「大人の」つきあいをすることは、短い人生において極上の楽しみである。

書籍データ


  1. ノラネコの研究:福音館書店 たくさんのふしぎ傑作集,伊澤雅子(文)平出衛(絵),本体1300円 www.fukuinkan.co.jp
  2. ホワッツ マイケル What’s Michael?:講談社 漫画文庫,小林まこと,1994-1995