摩擦と摩耗のマニュアル

掲 載 誌
トライボロジスト Vol.44/No.11/1999
編   集
(社)日本トライボロジー学会
発   行
(社)日本トライボロジー学会
書評執筆者
トライボロジスト編集委員 三菱石油(株)石油製品研究所松岡 徹氏

 本書は、生産技術や設計部門、生産現場の方たちに、摩擦・摩耗に関する実用的なデータを示すことにより、摩擦・摩耗の問題解決への手がかりが得られるように編纂されている。実際、設計者が接触表面の仕様を決定するには、熟練と経験が必要とされてきた。この経験にあたる摩擦・摩耗に関する事故例を数多く掲載すると同時に、基本的な用語解説を載せるなど、摩擦・摩耗の問題に出くわした際に使用するハンドブックとして使用できる。

 本書は、5つの章と2つの付録に分かれている。第1章は、「摩擦・摩耗の基礎」と題してあるが、教科書的な記載ではなく、摩擦部品の表面状態の観察、表面処理、潤滑方法、摩擦係数の低減方法、摩耗の対策といった実践的な技術課題と対策が判り易く書かれている。第2章は、「表面の挙動と主な現象」として、表面状態、表面応力、摩擦係数といった表面における機械的挙動と主な現象が書かれている。第3章は、「事例集」として摩擦・摩耗における具体的な事故例が分類され、写真とともに説明されている。また、対策として第1章の参照すべき箇所を明示してあり、事故の際の対策が判り易くなっている。第4章は、「摩擦・摩耗の用語」として、本書で用いられている用語が判り易く解説されている。第5章は、「各種の表面処理法」が説明され、摩擦・摩耗の問題への適用上の注意事項が述べられている。付録1では、「鋳鉄の概要」が述べられ、種類、機械的性質、表面処理、摩擦・摩耗への適用が書かれている。付録2では、「材料の諸特性」として設計に用いられる材料の特性データと各種表面処理の特性と適用が表にまとめられている。

 このように、本書は表面処理技術を中心に、技術者・設計者が必要としている情報、すなわち表面形態、材料の選択、表面処理の選択、設計仕様などについての解決方法が示されている。設計指針を得たい場合は第2章が中心になって参考になる。また、第3章の事例集では、さまざまな事故例が鮮明な写真とともに解説され、原因と対策が詳しく記載されているので、いざという時に役に立つと思われる。この章で直面している事故の特徴や形態から似たものを探し、第1章に記載されている対策方法で詳細な情報を得ることができるのである。これ一冊ですべてが解決するわけでないし、また万能でもないが、本書の内容が頭の片隅にでもあると、いざという時に役に立つ情報が含まれていることから、特にトライボロジーに携わる技術者・設計者の方にお勧めしたい一冊である。